コンサルティング会社が拡大を目指すことは正しいのか?

ビジネスの世界では、「拡大=成長=成功」と考えられることが多いです。売上を伸ばし、社員を増やし、より多くのクライアントを抱えることが、企業の発展だと見なされることが一般的です。しかし、それは本当に正しいのでしょうか?

特に、コンサルティング業務のように属人性の高い仕事において、「拡大」を追求することは必ずしもプラスに働くとは限りません。むしろ、品質の低下やクライアントの不満を招くリスクが大きくなる傾向にあります。

すべての業務をマニュアル化できるわけではなく、特に戦略設計やクライアントごとの最適な施策の立案といった部分には、どうしても属人性が伴うからです。

本記事では、コンサルティング会社が拡大を目指すことの是非について考えてみます。

目次

コンサルティングの本質は「属人性」にある

私は個人事業主時代を含めると、コンサルティング業務をかれこれ7年近く携わってきました。

コンサルタントには

・クライアントの状況を深く理解し、最適な解決策を提供する
・業界ごとの微妙なニュアンスを読み取り、個別に対応する
・クライアントとの信頼関係を築きながら、継続的な支援を行う

など、高度なスキルや経験が必要で、これらは単純にマニュアル化できるものではなく、経験と知識を積み重ねながら磨いていくものです。

もちろん部分的に効率化を図ることは可能ですが、すべての業務をマニュアル化できるわけではなく、特に戦略設計やクライアントごとの最適な施策の立案といった部分には、どうしても属人性が伴います。

小売業のようなビジネスモデルなら、同じ商品を大量生産し、多くの顧客に同じ価値を提供できます。しかし、コンサルティング業務は、クライアントごとに異なる課題に対して最適な解決策を提供する仕事です。そのため、標準化や画一化にはそもそも向いていません。

このような背景があり、コンサルティング会社が拡大を目指すと、回せる案件を増やすために業務の標準化が求められます。その結果「テンプレート化」に依存せざるを得なくなるのです。

では、これによって何が起こるのでしょうか。

拡大によって生じる「品質低下」のリスク

コンサルティングの「テンプレ化」が進んでいくと

・テンプレート的な提案が増え、柔軟性が低下する
・ジュニアコンサルタントや未経験者が案件を担当する割合が増える
・個々のクライアントに対する深い理解が失われる

などのリスクが生まれます。

こうした状況は、クライアントにとってマイナスであることは疑いようがありません。

もちろん、拡大をしたことによって組織が大きくなり、

・研修制度やメンター制度を確立することで、担当者が変わっても一定以上のサービス品質を保てる
・専門分野のエキスパートが集まることで、複雑なクライアントの課題にも多角的にアプローチできるようになる
・これにより、個々の案件に対してより専門性の高いサービスを提供することができる

というプラスの側面もあります。

しかし、実際のところ大手コンサルティングファームでは、トップコンサルタントがすべての案件を見ることありません。業務の多くはジュニアメンバーに任され、どうしても品質のバラつきが生じることは避けられないでしょう。

また、コンサルタントに経験値を積ませるという名目で担当者が頻繁に変わることもあります。そうなれば

・せっかく信頼関係を築いたのに、新しい担当者に1から説明しなければならない
・新しい担当者がクライアントの状況を完全に理解するまでに時間がかかる
・その結果、コンサルティングの精度が落ち、提案の質が下がる
・戦略が一貫せず、施策の軌道修正が増え、成果につながりにくくなる

などの問題が起こります。

コンサルティング業務は、「人と人との関係性」が非常に重要であり、業務を遂行するうえで信頼関係なくして、成功はありません。

にもかかわらず、担当者が定期的に変わってしまうと、クライアントの満足度は確実に下がり、結果として求める成果も出にくくなってしまいます。

そもそも拡大は必要なのか?

ここで改めて考えたいのは「拡大することは、本当に正しいのか?」という問いです。営業部隊を雇い、コンサルタントを雇い、組織を拡大すれば売上は伸びるかもしれません。

しかし、その代償として

・品質の低下
・クライアントとの関係の希薄化
・画一的なサービス提供

などのリスクを放置したまま拡大を追求することは、社会的・道徳的な責任にも疑問が残ります。また、目先の事業規模を拡大することが、必ずしもクライアントにとって最適な選択肢とは限らないという点は、考慮すべきだと思います。

「質の向上」にフォーカスする会社でありたい

コンサルティング会社は、拡大を目指すべきか、質を追求し続けるべきか。この問いの答えは、一つではありません。

ビジネスは、提供者・受益者の双方が継続的に利益を得られる形で成り立つべきだからこそ、急激な拡大によって、クライアントが十分な価値を受け取れなくなれば、長期的に見て持続可能ではなくなる可能性があります。

企業の拡大自体を否定しているのではなく「拡大の過程でいかに質を維持・向上させるか」という視点を持つことが極めて重要だと考えています。

ちなみに弊社は現在、創業1年目ですが現時点では拡大に力を入れておりません。無理に案件を増やして急成長を目指すのではなく、質の高いサービスを提供し、目の前のクライアントの成果を最大化することを優先しているためです。

これは若輩者の理想論かもしれませんが

「良い仕事をすれば良い口コミが生まれ、自然発生的に仕事が舞い込んでくる状況を作ることができるのではないか。」
「クライアントの満足度が高ければ、新たな案件が生まれ、結果として自然な形で拡大していくのではないか。」

と考えています。

いい仕事をする→クライアントから評価される→新たな仕事が生まれる→さらにいい仕事をする、、、という循環を作ることこそが、弊社にとって最も理想的な成長の形です。

単に拡大を追求するのではなく、「質の向上」を優先し、クライアント一社一社に対してより深く価値を提供することで、結果的に持続的な成長をしていく企業でありたいと思います。

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